研究経歴
私はこれまで太陽における活動現象の理論的研究に従事してきた.太陽というと,地球に最も近い恒星であることから,地球における生命,気象,その他諸々の活動を支配している存在ということが出来る.そうした我々にとって極めて身近な存在である太陽は,他の天体同様,天体物理学の熱心な研究対象となってきた.特に太陽表面で生じる活動現象は,純粋にその物理機構に対する科学的興味に加えて,例えば地磁気嵐に見られるように,活動現象それ自体が地球環境に及ぼす影響が大きいことから,近年重要な研究対象となってきている.こうした状況は,日本はもとより各国で「宇宙天気予報」というプロジェクトが他分野,特に地磁気分野との協力の下で進行している現状に見ることが出来る.
私が最初に取り組んだのは,数ある太陽活動現象の中でも最も活発な現象である flare(太陽面爆発)の発生・進化のプロセスを調べる研究である.この研究を進める上では,現象を時間的,空間的に精度よく捉えた観測データが重要な研究資料になる.私にとって観測データを土台にした理論的考察という研究スタイルは,大学院在学以来一貫した研究スタイルであり,それは博士学位論文のタイトル
"A Study of Solar Flares Based on Comparison between Theory and Observation"にも反映されている.
この意味で,1991 年に国際協力の下,日本が打ち上げた太陽観測衛星ようこうがもたらした鮮明な観測データは,私の研究において重要な役割を果たしてきた.ようこうは, flare がカスプ型構造を持ち,頂上部に高温高密のプラズマが存在する様子を明らかにした(図1上部).この観測事実を踏まえて,太陽コロナで発生する磁気リコネクションの非線形進化を数値シミュレーションによって調査した結果,カスプ型構造の形成と頂上部に磁気流体衝撃波により高温高密のプラズマが出来ることを明らかにした(図1下部,Magara et al. 1996).さらに,コロナの環境下で頂上部の温度がどの程度まで上昇するかを衝撃波の理論により評価した結果,約1億度という値が得られた(Magara 1998).この値は,熱的輻射を仮定した場合に観測データから示唆される値と一致した.他方,ようこうはその優れた分解能により flare の発生時に高密のプラズマの塊(プラズモイド)が惑星間空間へ噴出していく様子を明らかにした.このプラズモイドの観測的特徴をもとに,flare 発生前から発生時にかけて生じる物理過程を導いた(Magara, Shibata, & Yokoyama 1997; Magara & Shibata 1999).
学位取得後(1998 年),ポスドク研究員として京都大学飛騨天文台に勤務したが,これは私にとって研究手法の広がりという点で転機となった.それまでは観測結果を基にシミュレーションを活用した理論的考察を進めてきたわけだが,取り組む課題によっては観測データの解析自体も新たに行うことが必要になる.私は flare で解放されるエネルギーがどのようなプロセスで蓄積されるのかという問題に興味をもってきた.この問題は flare の発生領域における光球ガスの運動を調べることに関連してくる.幸いにも,飛騨天文台は世界第一級の光学太陽望遠鏡を有し,高精度の光球画像データの取得が可能であることから,この観測データを用いて光球ガスの運動を調べた(図2 Magara & Kitai 1999).対象としたのは,太陽面上でしばしば大規模な爆発・噴出現象を起こす filament(暗条)付近の領域である.この領域に局所相関追跡法を適用し,光球ガスの水平速度場を導出した(図2の矢印).その結果,filament に向かってガスが集まる converging motion の存在が確認された.以前よりこの運動は,filament を取り囲む磁場構造のエネルギーをポテンシャル状態から高めて不安定化させると指摘されており,今後はこうした光球ガスの運動の統計的性質を調べることでエネルギー蓄積過程のより深い理解を目指していく.
2000 年にアメリカ合衆国モンタナ州立大学へ異動し(ポスドク研究員),従来より予備的研究を進めていたコロナにおける磁場進化の3次元モデリングという課題に本格的に取り組み出した.この研究を進める動機となったのは,本大学のグループによって行われてきたコロナ中の磁場の活動性についての研究であり,
それによると大きな爆発を起こす活動領域には,捻れたS字の形状を持つ軟X線ループがしばしば出現する(図3).コロナの磁場構造に関する理論では,過去の多くの研究が光球下から磁場が浮上してくる過程を直接再現することなく磁場構造を議論していたが,私は太陽内部から磁場が光球上へ現れていく様子を直接再現することで,より self-consistent な方法でコロナ磁場の形成問題に取り組んだ(Magara 2001).さらに,3次元性に重点を置いた研究により,太陽内部からコロナへ浮上してきた磁束管が管内の磁力線の捻れの向きと電流分布に依存して,S字もしくは逆S字の形状を取ることを明らかにした(図4 Magara & Longcope 2001; Magara 2004)movie.これは,太陽面で観測されるS字型構造の正体に迫る重要な研究成果である(図3,図4では逆S字の例を示してある.また,図5では,各磁力線の足元の電流密度の値に応じて磁力線の色合いを変化させた例を示してある).今後は,こうした磁場構造の加熱機構に注目し,形成された磁場構造がどのような過程を経て軟X線ループとして観測されるのかという問題に精力的に取り組んでいく.
2003 年より,カリフォルニア大学バークレ校に所属(assistant researcher;助手相当).現在,バークレ校附属宇宙科学研究所の派遣研究員としてワシントンDCに勤務しており,宇宙天気予報のためのモデルを構築するプロジェクト
CISM (Center for Integrated
Space Weather Modeling)に参加している.このプロジェクトは,太陽から発生したプラズマ流が惑星間空間を経て地球の磁気圏に擾乱を与える過程を統一的に再現するモデルの構築を目的としており,私は主に太陽面でのプラズマ流の発生要因を探る研究に携わっている.最新情報はこちら.
参考論文
Magara, T. 2004
ApJ, 605, 480
"A Model for Dynamic Evolution of Emerging Magnetic
Fields in the Sun"
Magara, T. & Longcope, D. W. 2001, ApJ, 559, L55
"Sigmoid Structure of an Emerging Flux Tube"
Magara, T. 2001, ApJ, 549, 608
"Dynamics of Emerging Flux Tubes in the Sun"
Magara, T. & Kitai, R. 1999, ApJ, 524, 469
"Photospheric and Chromospheric Gas Motions around a Dark Filament"
Magara, T. & Shibata, K. 1999, ApJ, 514, 456
"Evolution of Eruptive Flares. II. The Occurrence of Locally Enhanced Resistivity"
Magara, T. 1998, Ph. D. Thesis, Univ. Kyoto
"A Study of Solar Flares Based on Comparison between Theory and Observation"
Magara, T., Shibata, K., & Yokoyama, T. 1997, ApJ, 487, 437
"Evolution of Eruptive Flares. I. Plasmoid Dynamics in Eruptive Flares"
Magara, T., Mineshige, S., Yokoyama, T., & Shibata, K. 1996, ApJ, 466, 1054
"Numerical Simulation of Magnetic Reconnection in Eruptive Flares"